放映中のNHK朝ドラ「虎に翼」を毎日見ています。
今月からはいよいよ「裁判官編」。
寅子は一度はあきらめた法律の道に戻り、民法改正の作業をするチームで働き始めました。
今日は、そこで出会ったGHQの担当者、アルバート・ホーナーが、「どうぞご家族に」と1枚の板チョコを寅子に手渡しました。
「子どもが喜びます」という寅子から、娘の優未の他にも一緒に暮らす2人の甥がいると聞いたホーナーが、知らなかったこととは言え申し訳なさそうに
One chocolate is hardly enough, is it?(字幕:1つでは足りませんね)
というと、寅子は
Not, at all.(字幕:大丈夫です)
その瞬間、ホーナーの顔が曇り、うなづいたまま無言で執務室に戻って行きました。
問題は寅子の "Not at all."です。
あえて「字幕」と付けましたが、たしかに not at all は「全く〜ない」という文字通りの意味から、相手に何か謝罪された時に「全くそんなことはありません。気にしていませんよ」と、相手を気遣う使い方があります。
字幕は、寅子がそのつもりで言ったことを表したものですが、ホーナーの受け止め方は違いました。
チョコレート1枚では "hardly enough"、これは"not enough"と同じこと。
それに対する "Not at all."は、
”No, it's not enough at all."(全然足りません)
ホーナーが言葉を失い、がっかりした表情を見せたのも当然ですね。
でもそれは彼が勝手に寅子を誤解したわけではなく、このやり取りで Not at all.はそうとしか受け取れないからです。
外国語の怖いところです。
このドラマは、女性が法律の世界に進出する道を開いた寅子の姿を描いていますが、それとは別に、戦後、占領軍の指導下という状況では、慣れない英語によるこうした行き違いや齟齬が絶えなかったことでしょう。
そんな細部のエピソードとしてのこの場面だと思いますが、このやり取りがこの先に何か意味を持つのかも気になるところです。
たとえば、
1.翌日ホーナーが「サディ(寅子のこと)、きのうはごめん」と言ってチョコレートを山のように持ってくる
2.こっちは知らなかったから謝ったのにあの言い方はないだろうと、寅子に悪印象を持つ
3.逆に、寅子は正直に物を言う人間だと思ったホーナーが、仕事ではまだ言いたいことがはっきり言えない寅子が自分を取り戻すきっかけになる
・・・と、いろいろ妄想してみましたが、今週の寅子は、たびたび「スンッ」になってしまいあまり調子が出ません。
自分が一度法律の道を捨てようとしたことへの後ろめたさ、夫を失った花江の姿を思い出しながら、自分も戦争で心に深い傷を負ったことを改めて感じる思い。
そうした中で、今週もあと木・金の2日です。
ほぼ毎週、後半はポジティブな展開になっていく「虎に翼」なので、寅子は間もなく優三の言っていた
「何かに夢中になっている時のトラちゃんの顔」
を取り戻すことになるでしょう。
明日も楽しみです。